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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2451号 判決

昭和五七年(ネ)第二五八二号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)

星野文男

昭和五七年(ネ)第二四五一号事件被控訴人(以下「第一審原告」という。)

栗林好英

右両名訴訟代理人弁護士

片桐敏栄

昭和五七年(ネ)第二四五一号事件控訴人、同第二五八二号事件被控訴人

日本国有鉄道

(以下「第一審被告」という。)

右代表者総裁

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

斎藤彰

右代理人

宮口威

高木輝雄

木口篤

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は、昭和五七年(ネ)第二四五一号事件に関する分については第一審被告の、同第二五八二号事件に関する分については第一審原告星野文男の各負担とする。

事実

第一審被告は、昭和五七年(ネ)第二四五一号事件につき、「原判決中、第一審被告敗訴の部分を取消す。第一審原告栗林の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告栗林の負担とする。」との判決を求め、同第二五八二号事件につき控訴棄却の判決を求め、第一審原告星野は、同第二五八二号事件につき、「原判決を取消す。第一審被告が昭和五二年八月三日付をもって発令した第一審原告星野に対する六か月間停職の処分は無効であることを確認する。第一審被告は、第一審原告星野に対し金七九万一三四七円及びこれに対する昭和五二年一一月三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決並びに右第三項につき仮執行の宣言を求め、第一審原告栗林は、同第二四五一号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

原判決六枚目裏六行目の「抗弁1」から同七行目末尾までを、「抗弁1は否認する。五月二四日から六月一三日までのうち、第一審原告星野が本来勤務割実施予定表に従い勤務しなければならなかった日は九日であり、第一審原告栗林もほぼ同じである。」と改める。

(当審における第一審原告らの主張)

一  懲戒事由不該当

1  第一審被告が第一審原告らに本件各懲戒処分を通知した「事由書」によれば、懲戒事由は「昭和五二年五月二四日から昭和五二年六月一四日まで勤務を欠いたことは職員として本分にもとる著しく不都合な行為である」こと(第一審原告星野については「勤務を欠いたことなど」とされているが、「など」というのは処分前歴を指しているものと思われる。)とされているところ、右事由は、国労と第一審被告間の「懲戒の基準に関する協約」一条に定める懲戒事由のうち一七号該当をいうものにすぎないのであるから懲戒処分に先立って懲戒されるべき事由を文書で通知しなければならないとする規定(同三条)、懲戒処分に対し異議申立てによる弁明、弁護が制度的に保障されていること(同四条、一三条)の趣旨からすれば、本件訴訟において第一審被告が前記懲戒事由のほかに就業規則六六条一号、二号、一五号を懲戒事由として主張することは許されないものというべく、かつ、現に、これらの各号に該当すべき具体的な事実の主張がなされているものでもないから、一七号以外の懲戒事由があることを理由に第一審被告の本件各懲戒処分を有効とすることは許されない。更に、右の事由書によれば、具体的には、第一審原告らが欠勤したことが本件各懲戒の理由とされているのであるが、欠勤自体は、就業規則五条が「みだりに欠勤してはならない。」と定めているとおり、怠慢によりみだりになされた欠勤でない以上は、懲戒の対象となし得ないものであり、第一審原告らの本件欠勤が不当に逮捕、勾留されたことによるやむを得ないものであることは従前から主張しているとおりであるから、右欠勤自体を懲戒処分の理由とすることは許されないところである。しかるに、第一審被告は、本件訴訟において、右欠勤に届出がなかったことをもって、懲戒事由に該当すると主張するのであるが、「無断」欠勤であることは前記のように懲戒の通知書に記載されていないので本件訴訟において主張することを許されないものというべきであるから、これを理由として本件各懲戒処分を有効とすることも許されない。

2  のみならず、第一審原告らの欠勤については、就業規則一二条一項所定の届出がなされている。

すなわち、まず、右届出が必要とされる合理的根拠は、当局において欠務に対する方策を講ずるためであり、これについて特に方式の定めはないから、右規則に違反したか否かは、他の事情と相俟って最少限度右対策を講じうる届出がなされたか否かによるべきところ、第一審原告らがすでに主張したように、第一審原告星野においては、本人の意思に基づき、友人の片岡謙二及び母親の星野としみにより右届出がなされたものであり(なお、従前主張のほかに、第一審原告星野の母親は、五月二六日始業時間直後に、岩島助役に対し、同第一審原告がデモで六〇~七〇人逮捕された者の中にいると思われる旨電話連絡し、父親からは、五月三〇日同助役に対し長期勾留の見通しについて連絡し、六月七日には、同第一審原告の自宅に警察官が来訪しこれによって最終的に勾留中であることが確認されたので、母親が、翌八日その旨を同助役に報告している。)、ことに五月二五日の母親の新潟駅への出頭は、欠勤後の比較的早い時期になされたもので、およそ欠勤する期間を予測しうる事由を届出ており、これにより、第一審被告は、五月二五日に、第一審原告星野の六月の勤務予定をはずして日勤勤務とする新しい勤務割実施予定表(甲第三一号証の三)を公表するという対応策を講じているから、同日の届出は前記規則によるそれ以前の欠勤についての事後の届出であり、二六日以降の欠勤についての事前の届出というべきである。

第一審原告栗林については、すでに主張したように、五月二六日に書面による休暇届を提出しているだけではなく、五月二五日には父親が職場へ出頭して届出をしており(なお、父親は、以後あらためて職場へ出頭や報告を行っていないが、国労東新潟港駅分会長であった柏淳一が職場の世話役であったため、同人と当局とは職場では一体と考えられる状況にあったので、電話等で同人と情報交換を続けたものである。)、更に五月二六日には、新潟東署から東新潟港駅の駅長に逮捕の事実が連絡されるなど、第一審被告は第一審原告栗林が逮捕された事実を知っており、同原告の欠勤による職場の影響は七日程度にすぎず、最少限に食い止められている。

なお、本件において、第一審原告らの右各届出は必ずしも十分な届出とはいえないとしても、外部との連絡を制限された身柄拘束という特殊な事態のもとで、このような経験のない本人及び両親において、外聞をはばかり、勤務上の不利益扱いをおそれ、右事実をはっきりさせたくない気持もあって、前記程度の届出となったもので、右のような具体的状況のもとにおいては、やむを得なかったものである。

そして、本件の如く、逮捕、勾留された場合は、本人が出勤しようと思っても客観的に不可能であり、したがって、本件欠勤は、病気、山の遭難等の場合と同様、社会通念上やむを得ない欠勤であり、日本国有鉄道職員勤務及び休暇規定六条一五号の解説によれば、「鉄道事故以外の刑事被告となった場合の未決の期間(休、停職を命じられた場合を除く。)の欠勤は「事故」とする。」とされているところ、右被告とは身柄拘束された被疑者をも指すものと解するのが合理的であるから、本件欠勤については、届出がなされた以上、当然に、管理者が勤務を欠くことに承認を与えている「事故欠勤」として扱うべきである。

二  (懲戒権の濫用)

本件欠勤は前記のように病気等による欠勤と異ならないのに、これを懲戒処分の対象としたのは、第一審原告らが組合活動の一環としてデモに参加し、そのため逮捕、勾留されたからであり、組合活動、さらには思想、信条を理由としたもので、懲戒権の濫用である。

また、第一審被告の就業規則によれば、職員が刑事訴追された場合は、休職(賃金の六〇パーセントを支給)となるだけで、これを懲戒処分の対象としていないのに、本件の如く、公判請求はむろん略式による罰金さえ科されておらず、起訴猶予となったものでもないことは前後の経過から明らかであり、逮捕、勾留は捜査側の誤認と考えざるを得ず、少くとも長期にわたる身柄拘束自体不必要、不当な事案であったものに対し、これを懲戒処分したのは、右との対比上も権衡を失するものである。このほか、第一審原告らの欠勤によって職場に与えた混乱も最少限にくいとめられたこと(第一審原告星野の勤務は五月二四日は日勤勤務、二五日は平常勤務であったから、二四日は勤務替え等の必要はなく、この必要のあったのは五月二五日、二七日、三〇日の三日間である。六月以降は、見習いの業務とされていたが、見習いの欠務そのものは業務に支障を及ぼすものではなく、又、現実には、五月二五日の段階で業務からはずされたため、勤務替えの必要さえなかった。同栗林の場合も、三交替輪番勤務上、欠勤により実質的に職場に影響を与えたのは、七日程度にすぎない。)、従前の本件と同種事例では懲戒処分がなされていないし、本件各懲戒処分後の事例についても同様であって、当時の第一審被告の労務管理はそれほど厳しくなく、むしろ杜撰とさえいえる状況にあったこと、第一審原告らに対しては、五〇日間の長期にわたる謹慎処分が行なわれていること、停職処分は昇給延伸にもつながること(第一審原告星野の場合には、その回復措置がとられていない。)、なお、第一審原告星野の懲戒処分歴はすべてビラ貼りとストライキによるものであり、遅参などで処分を受けたことはないことなどに照らすと、本件各懲戒処分は、著しく苛酷であり、懲戒権の濫用である。

(当審における第一審被告の主張)

一1  本件各懲戒処分通知書に第一審原告ら主張のような記載がなされていることは認めるが、それ故に第一審被告が本件訴訟において就業規則六六条一号、二号、一五号該当の主張をすることが許されないという第一審原告らの主張は、独自の見解であって失当である。なお、右の二号は、「責務を尽さずによって業務に支障を生ぜしめたとき」というものであるところ、第一審原告らの上司、同僚らが自らの生活設計を犠牲にしてまで献身的に努力をした結果、現実の障害や具体的な事故が発生しなかったのであって、数度におよぶ代務と勤務変更、度重なる組替えなど職場及び他の職員に大きな困惑と動揺を与える事態を生ぜしめたこと自体が、業務に支障を生ぜしめたことに該当するのである。

第一審原告らの本件欠勤がやむを得ない事由に基づくものであることは否認する。第一審原告らは、国労新潟地方本部の指令に基づかず、むしろその方針に逆らって、本件の五・二三集会に参加し、集会後のデモ行進中に警察官ともみあいとなり、公務執行妨害罪の疑いで逮捕、勾留されたものであるが、参加直前に定期券その他身分の明らかとなるような所持品の全部を駅ロッカーに預けていたことなどからして、第一審原告らは、当初から、警察官らとのトラブルの発生と逮捕などの事態の可能性を予測していたものと思われる。

2  第一審原告らが本件欠勤について届出をしたことは否認する。第一審原告らからその意思に基づく欠勤の届出がなされたことは皆無であり、第一審原告ら主張の者と当局との折衝も、その間届出と評価できるものがあったとは到底いえない。第一審原告栗林主張の「休暇届」は、同主張の経緯で作成、郵送されたものではなく、真実は、同第一審原告は、六月一三日に近い日に「休暇届」と「昭和 年 月 日」とだけ記載された書面に署名、指印しただけであり、これが、後日片岡謙二により本文、年月日、宛名が補充され文書の体裁に作成され、六月一三日に東新潟港駅長宛に投函され翌一四日同駅長に届いたものにすぎないのであって、同第一審原告の右のような行為だけで届出をなしたものとは到底評価できないのであるし、その内容自体、欠勤の終期が明らかにされていないのであって、有効な届出とはいえない。のみならず、右の書面は、同第一審原告が欠勤を始めてから二二日後に右駅長に届いたものであり、仮にその延着が同第一審原告の予期しないものであったとしても、第一審被告はこの点について何ら関知しないのであるから、それによる不利益を第一審被告が甘受しなければならない理由はなく、このように欠勤の終りの時期に届いた届出は、就業規則の定める事後速やかになされた届出に該当しない。更に、事後の届出は、就業規則一二条一項によれば、病気その他の事故によりやむを得ず予め届出ることができない場合になされるべきものであり、かつ、右届出には承認を要するのであるが、第一審原告らの欠勤は、前記のように逮捕、勾留されたことに基づくものであって病気その他の事故と同一視できるか否かについては多大の疑問があるうえ、前記のように事後速やかに届出られたものではないし、これらのことと、逮捕、勾留が第一審原告栗林個人の行為に起因し、客観的に明白な違法逮捕、勾留とはいえず、天変地異などと同視すべき事柄ではないことなどの理由により、第一審被告は、同第一審原告の前記休暇届による届出を承認していないのであるから、承認を受けない事後の届出しかない同第一審原告の本件欠勤は、無断欠勤と同一の評価を受けなければならず、当然懲戒の対象となるものである。

なお、届出の方式は、「日本国有鉄道職員出務表等取扱手続」(昭和二六年三月一七日総裁達第九八号)に定められている。

二  懲戒権濫用の主張は争う。なお、休職(但し、刑事事件で起訴された場合には必ず休職とされるわけではない。)は懲戒処分ではないから、停職との間で支払われる賃金の割合が異なるのは当然である。第一審原告星野について同第一審原告主張の回復措置がとられていないことは事実であるが、このことは本件懲戒処分の正当性には関係がない。

(証拠関係)

原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1  引用した原判決事実摘示中の請求原因1項、同2項(一)(二)及び同3項記載の事実は当事者間に争いがないところ、第一審被告は、本件各懲戒処分は、第一審原告らが昭和五二年五月二四日から同年六月一四日までの間無断で勤務を欠いたので、これを理由としてなされたものであると主張し、第一審原告らは、まず、右欠勤の期間(日数)を争うとともに、欠勤については有効な届出がなされていると主張するのである。

2  そこで、欠勤の期間についてまず検討するに、(証拠略)、第一審原告星野(原審第一回、当審)、同栗林(原、当審)各本人尋問の結果によれば、第一審原告らは、後記のとおり、五月二三日公務執行妨害の嫌疑で逮捕され、六月一三日釈放されるまで引続き勾留され、五月二四日から六月一三日まで勤務できなかったこと、六月一四日の勤務はいずれも日勤勤務と指定されていたところ、いずれもその勤務時間終了後に各職場に顔を出したにすぎないこと、この間の第一審原告らの勤務については、第一審被告作成にかかる勤務割予定表の定めるところであるところ、その勤務形態については、一昼夜交代勤務の翌日が非番となるなどの特殊性はあるものの、数日の公休日を除いた日は本来勤務すべき日であったことを認定することができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。したがって、第一審原告らは、五月二三日から六月一四日まで、公休日を除き連続して欠勤したものといわなければならない。

3  次に、右欠勤の届出について検討する。なお、第一審原告らは、本件各懲戒処分通知書の懲戒の事由書には欠勤が無断であったことは記載されていないから、第一審被告は、本件訴訟において、欠勤に届出がなかったことを懲戒事由として主張することは許されないと主張するところ、事由書がそのような記載になっていることは当事者間に争いがない。しかし、届出の有無は欠勤の態様のひとつであるにすぎず、欠勤自体と密接不可分の関連を有する事項として評価の対象となるべきものであって、本件各懲戒処分当時に第一審原・被告らに容易に判明しえた事実でもあるから、本件訴訟において第一審被告が右のように処分事由の主張をすることは、第一審原告ら主張の通知、異議、弁明の制度があることを前提に考えても、これを禁ずべき何らの理由もない。しかして、(証拠略)によれば、国鉄就業規則一二条一項は、「職員が遅刻、早退及び欠勤、欠務をする場合は、所属長に予めその理由を具して届出でその承認を得なければならない。但し、病気その他の事故によりやむを得ず予め届出ることができなかったときは、事後速やかに届出てその承認をうけなければならない。」と規定していること、右届出の様式については、「国鉄職員出務表等取扱手続」の中に、「予想できる事由で欠勤しようとする者には、当番、非番のある勤務のものは三日以前に、その他の者は少くともその前日までに欠勤簿に本人をして所定事項を記入なつ印のうえ、承認をうけさせる。但し、やむを得ない事由でこれによることができないときは、事後すみやかに右の手続をとる。」(五条)等とする規定があり、別に、欠勤簿の様式及び届出事項として、欠勤事由、期間、日数その他の事項が定められていることが認められるところ、右所定の様式による届出があったことは、第一審原告らの主張しないところである。しかし、右の様式自体は他の方法により代替できない性質のものではなく、欠勤の具体的情況によっては右様式によることが困難な場合もあるのであるから、前記所定の届出事項と捺印の要請等の趣旨にみられるように、明確に本人の届出意思に基づくものと認められる方法により欠勤事由、欠勤期間が判明できる内容の届出がなされたときは、右様式によるものでなくとも、就業規則一二条一項の届出として十分となしうる場合があるというべきである。

4  右のような届出の有無に関する当裁判所の認定、判断は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決理由説示中の該当部分(一七枚目裏七行目から二二枚目裏一一行目まで)と同じであるから、これを引用する。

(一)  原判決一七枚目裏八行目の「第一一号証、」の次に「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証、」を加え、同一二行目の「(第一回)」を「(原審第一回、当審)」と改め、「同栗林」の次に「(原、当審)」を加える。

(二)  同一八枚目裏三行目の「それで、」から同八行目の「した。」までを、次のとおり改める。

「第一審原告栗林は、五月二五日の勾留質問の前に裁判所構内でなされた弁護士田村公一との接見の際に、同弁護士から、冒頭部分に「休暇届」と、末尾部分に「昭和 年 月 日」と「殿」と記載された用紙を受取り、一旦これを持帰ったが、翌二六日、勾留が決り、長期拘束が予測される事態となり、かつ、すでに同第一審原告の持物などから警察官に氏名等を知られていることがわかったこともあって、右用紙に署名、指印して、警察官に対し、弁護士に交付してほしい旨依頼してこれを託した。」

(三)  同一九枚目表六行目の「山本」を「山下」と改める。

(四)  同一九枚目裏三行目の末尾の次に、「なお、星野としみは五月二六日、また同第一審原告の父親が同月三〇日、いずれも岩島に対し、電話で、第一審原告星野は本件のデモ行進により逮捕されたのではないかと思われ心配である、申訳ない旨述べ、六月八日には、としみから同様に電話で、警察官から同第一審原告が大井署に拘束されていることを確認した旨連絡した。片岡も、五月二六日、同駅に対し、電話で、同第一審原告は逮捕されたようなので欠勤が長引くかもしれない旨連絡したが、自分の氏名は明らかにしなかった。」と付け加える。

(五)  同二〇枚目表四行目末尾の次に、次のとおり加える。「右休暇届は、弁護士の手に渡った後、本文として『私は五月二三日の狭山差別裁判糾弾闘争に参加しましたが、その際警察官に全く不当にも逮捕され勾留されています。その為出勤の意志があるにもかかわらず出勤できません。釈放され次第出勤致しますが、それまでの間休暇をとりますのでよろしくお願い致します。』と記入され、年月日欄に昭和五二年五月二六日と、宛名欄に東新潟港駅長殿とそれぞれ記入されたほか、第一審原告栗林の署名、指印が本人のものであることを証明する旨の大井警察署司法巡査の証明文及び弁護士田村公一の署名、押印も付されていた。

なお、第一審原告らの公務執行妨害被疑事件については、六月二〇日いずれも不起訴処分(理由は不明)がなされた。」

(六)  同二〇枚目表七行目の末尾の次に、次のとおり付け加える。

「第一審被告は、第一審原告栗林の休暇届は六月一三日に近い日になってはじめて警察官に託されたものであると主張する。たしかに、同第一審原告は、五月二五日に休暇届用紙を受取っているとするとその場でこれに補充することもできたはずであること、身柄を拘束されてから氏名についても黙秘していたのに、勾留の始まったばかりの五月二六日の段階で氏名を記載した休暇届を警察官に託す気持になったのは見方によっては不自然であり、六月一三日片岡の許に送られるまでの間の事情が具体的に明らかではないこと、同第一審原告は、原審と当審とで本文の記載者に関し異なった供述をしていることなど不審な点はあるが、右の不自然とみえる点も、前記のように長期拘束が決った日及び警察による身許捜査の関係からそれなりに理解できないわけではなく、到達が遅延した点は、警察官(更度接見のため訪れた弁護士に渡されるまでの間)、更には弁護士の手許に何日間かとどまったままとなっていた可能性を否定し去ることができないのであるから(この可能性を否定する証拠はない。)、前記供述の変更という事情を考慮しても(本文が同第一審原告の記載によるものでないことは、筆跡からして明瞭である。)、拘束中の同第一審原告の出した休暇届が被控訴人側に到達している本件においては、同第一審原告の、五月二六日に署名、指印してこれを警察官に託した旨の供述は、そのことを強調せんがためと解される右のような供述のそごがあるにしても、全体としては、これを排斥し難いものというべきである。」

(七)  同二〇枚目表八行目及び一二行目の「(第一回)」を各「(原審第一回、当審)」と改め、同八行目の「同栗林」の次に「(原、当審)」を加える。

(八)  同二一枚目表二行目冒頭の「も」の次に「具体的なものではなく、陳謝が主たるものであり、かつ、第一審原告ら自身の届出意思に基づくものであるか否かも全く不明なのであって、」を、同四行目冒頭の「から、」の次に「仮にこれによって第一審被告がある程度第一審原告らのその後の欠勤を予想し、これに対して対策を講ずることができたとしても、それだけの理由で右を欠勤の届出と同視することは到底できず、結局」を同五行目の末尾の次に「このことは、星野としみが五月二六日に、また第一審原告星野の父親が同月三〇日に、それぞれ電話でなした連絡についても同様にいうことができる。星野としみが六月八日にした電話連絡については、第一審原告星野の欠勤理由及び所在場所等を相当の確実性をもって通知したものであるが、この連絡も、同第一審原告自らの届出意思に基づきその代理人として欠勤の届出をなすものであることが第一審被告に了解できるようなものではない(そして現実にも、同第一審原告の届出意思に基づいたものではない)から、これによっても、同第一審原告の欠勤の届出があったものとすることはできない。」を、それぞれ付け加える。

(九)  同二一枚目表六行目の「あるが、」の次に「その記載内容及び様式からして第一審原告栗林の欠勤届出意思に基づいて送付されたものであることが明らかであるとともに、」を、同七行目の「国鉄就業規則」の次に「及び国鉄職員出務表等取扱手続」を、それぞれ加える。

(一〇)  同二二枚目表三行目の冒頭から九行目の「ことにはなるが、」までを削除し、同九行目の「同日」を「五月二五日」と、同一〇行目の「一六日」を「二六日」とそれぞれ訂正し、同末行の「結局」から同二二枚目裏二行目までを次のとおり改める。

「また、五月二六日の時点において、右休暇届には、本文、日付、宛名の記載が欠けていたが、第一審原告栗林は、弁護士らにより所要事項が補充され送付されるべきものとして休暇届用紙に署名、指印しこれを託したのであって、その補充されるべき内容は自ずから明らかであったというべきであるから、第三者が内容を補充し郵便に付したものであっても、同第一審原告の意思に基づき同人がなした届出というべきものであることは明らかである。更に、右のように届出が書面でなされ、その提出のためになしうる行為自体は速やかに着手されたが、欠勤者の責に帰すべき事由が認められないのに延着したような場合にも、事後速やかに届出をしたことになると解するのが相当であるから、以上によれば、結局、第一審原告栗林の休暇届は、同第一審原告の本件欠勤全部についての、やむを得ない理由により事後速やかになされた届出にあたると認めるべきである。」

(一一)  同二二枚目裏六行目の「氏名」から八行目の「認められ、」までを「それまでの間欠勤の届出をしようと努めた事実を認定するに足る証拠はないのであって、もしその意思があったのなら、身柄拘束中早期に弁護人又は弁護人となろうとする者と接見しこれらの者に届出を依頼することも不可能であったとは認められないのみならず(自らこの手段を講ずることが可能であるほか、勾留通知先を指定し通知を受けた者が弁護人を選任することも可能である。)」と改める。

二  第一審被告は、第一審原告栗林の欠勤について有効な届出があったとしても、第一審被告は右欠勤を承認していないから、無断欠勤と同一の評価を受けるべきであると主張するところ、同第一審原告の欠勤について第一審被告が承認を与えていないことは弁論の全趣旨により明らかである。しかし、届出が事後速やかになされたものに該当しないことを理由に承認を与えない点については、前記のとおりその前提を欠くものであるから、理由がない。次に、欠勤理由が逮捕勾留による身柄拘束であって病気その他の事故と同視できないことを理由とする点について検討する。(証拠略)によれば、国鉄就業規則五条は「職員はみだりに欠勤……してはならない。」旨定めていることを認めることができるが、その趣旨は、職員が社会通念上首肯するに足る理由がないのに恣意的に欠勤するならば、勤務計画の樹立及び実施の障害となるほか、他の職員に過重又は不時の負担をかけ、ひいては勤労意欲の減退をも招くことになり、かくては、能率的な運営により鉄道事業を経営しもって公共の福祉を増進するという国鉄の目的自体をも危うくしかねないため、このような恣意的欠勤を禁ずるとともに、正当な欠勤についてはこれに対する対応策を講ずることによって右の事態を未然に防止するところにあると解されるのであって、就業規則一二条一項の欠勤の届出及びこれに対する承認の制度は、手続の側面から右の趣旨を具体化し、これによって、恣意的ないし無断欠勤により企業秩序及び国鉄業務の円滑な遂行が妨げられることを防止しようとするものと解することができる。このような観点からみると、承認を与えるか否かはもとより第一審被告の自由裁量によるところではなく、欠勤が前記のように恣意的なものと認められない場合は、第一審被告はこれを不承認とすることはできないものというべきである。これを第一審原告栗林の場合についてみるに、欠勤は逮捕、勾留による身柄拘束を理由とするものではあるが、その被疑事実が公務執行妨害の嫌疑であり、具体的には前記のようにデモ行進の規制にあたる機動隊員の足をけったというようなことであると認められるだけで、そのほかの情況を認定するに足る証拠はなく(この点に触れる第一審原告栗林本人の供述(原、当審)、同第一審原告の陳述書である前記甲第二〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第六号証は、いずれも公務執行妨害の所為があったことを否定するものである。)、捜査の結果は、勾留期間満了とともに不起訴処分に付されて釈放されたものであり、右処分のうちには嫌疑なし及び嫌疑不十分の場合も含まれることからすると、本件の証拠による限りは、前記のような逮捕、勾留がなされたことだけでは、同第一審原告がデモ行進中に犯罪行為を犯したものと断定し難いものというほかなく、そのほかに、同第一審原告が自らの責に帰すべき原因により逮捕、勾留を招来したものと認めるべき証拠はない(勾留が裁判官による審査を経ていることから、その段階では勾留及びそれに先立つ現行犯逮捕にそれなりの理由があるものと認められる状況にあったとはいえるにしても、結局不起訴処分で終っている本件のような場合においては、逮捕勾留につき被疑者本人の責に帰すべき理由が実際にあったとは、当然には推定されない。第一審被告の指摘する、同第一審原告が身分の明らかとなるような所持品を事前に駅のロッカーに預けた事実にしても、不慮の事態に備えたものとはいえても、逮捕を予知しながら敢えて違法行為に及んだものと推認する根拠とするには足りない。)。そうだとすると、同第一審原告の欠勤については、就業規則五条が禁止する恣意的な欠勤に該当するものと認めるだけの証拠はないことになるから、第一審被告は、右欠勤について前記のように届出があった以上、これを不承認とすることは許されないものというべきである。

三  以上のとおり、第一審原告栗林の本件欠勤については就業規則所定の届出があり、これについて承認を拒絶できない場合に該当し、他方、同星野の本件欠勤は右届出を欠くものである。もっとも、第一審原告星野についても、同栗林について判示したところと同様に、何らかの公務執行妨害の所為を敢行したことを確認するに足る証拠はないものといわざるを得ず、そのほかに同第一審原告がその責に帰すべき原因により逮捕、勾留を招来したものと認めるべき証拠はないのであるから、同第一審原告の欠勤が前記就業規則にいうみだりになされたものとは認定し得ず、したがって右欠勤自体を直ちに懲戒の対象となし得ないものといわなければならないが、そうであっても、就業規則一二条所定の届出制度が有する前記のような意義に鑑みるときは、届出義務の存在はいささかでも影響を受けるものではないのであって、これを欠くときは、就業規則違反の責を免れ得ないものである。

四1  第一審原告星野の右無断欠勤がその職場に与えた影響に関する当裁判所の認定は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決理由説示中の該当部分(二三枚目表三行目から二四枚目裏一二行目まで)と同じであるから、これを引用する。

(一)  原判決二三枚目表三行目の「成立に争いのない」から同五行目の「(第一回)」までを「成立に争いのない乙第五号証、第一八号証、前記甲第一七号証、第三一号証の一ないし三、乙第八号証の一、第九号証、第二一号証、証人岩島博、同大倉邦夫の各証言、第一審原告星野本・人尋問の結果(原審第一回、当審)」と改める。

(二)  同二三枚目裏九行目の「二五日が」を「二四日が」と改め、同一一行目の「徹夜勤務」の次に「(すなわち、二五日、二七日、三〇日が徹夜勤務日として指定されている。)」を加える。

(三)  同二四枚目表八行目の「二四日、」及び一一、一二行目の「二六日、」を削る。

(四)  同二四枚目裏四行目の「五月三一日」を「更に」と改め、同五行目の「同月六日、」から六行目の「作成し直し、」までを削る。

2  国鉄法三一条一項一号にいう「日本国有鉄道の定める業務上の規程」にあたる国鉄就業規則六六条一号、二号、一五号、一七号がそれぞれ第一審被告主張のとおり規定していることは当事者間に争いがないところ、前記認定事実によれば、第一審原告星野の本件無断欠勤は、同第一審原告の職場における上司同僚の努力と犠牲により現実に業務に支障を生じさせることは回避できたのであるから、右二号の規定には該当しないが、他の各号に該当するものというべきである。第一審原告星野は、本件懲戒処分通知書の前記記載に照らして、第一審被告は、一七号以外の規定に該当することを主張することが許されない旨主張するが、右の記載が一号、一五号に該当することの指摘をことさら排除するものとは到底認められないのみならず、特定の行為が懲戒事由を定める就業規則のどの条項に該当するかについては、処分者は、懲戒処分当時に告知した条項のみならずその他の条項をも処分無効確認請求の訴訟において主張することが許されると解すべきであるから、採用することができない。

五  そこで、第一審原告星野の再抗弁について検討すべきところ、これに関する当裁判所の判断は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決理由説示中の該当部分(二五枚目表一〇行目から三一枚目表八行目まで)と同じであるから、これを引用する。

1  原判決二五枚目裏六行目の「前掲」の次に「甲第六号証」、を同七行目の「甲」の次に「第一、第二、」を、同一一行目の「原告星野」の前に「本件懲戒処分については、六月二四日に懲戒処分通知書が作成されたが、第一審原告らがその受取りを拒否したので、同月二七日郵送され、同原告らのもとに到達した。これに対し、」をそれぞれ加える。

2  同二七枚目裏二行目の「第一一号証」を「第一〇号証」と、同三行目の「(第一回)」を「(原審第一回、当審)」とそれぞれ改め、同一三行目の「ものであるが」を「面もあるが」と改める。

3  同二八枚目表一一行目の「あったこと、」の次に「したがって、謹慎は、それまでの間第一審原告星野を具体的な業務を命じない日勤勤務とする旨の業務命令としてなされたもので、これにより右手直しによる混乱を防止しようとするものでもあったこと、前記のとおり六月二四日には同第一審原告に対する懲戒処分通知書が作成されていること、」を加える。

4  同二八枚目裏二行目の「ところで」から二九枚目表二行目の「異なるものである。」までを、次のとおり改める。「ところで、同一事由に基づき二度にわたり懲戒処分を課すことが許されないことは多言を要しないが、第一審原告星野に対して命ぜられた謹慎は、前記のような目的のもとに日勤勤務をさせた業務命令であって、本件無断欠勤に対する制裁としてとられた措置ではなく、懲戒処分が発令されるまでの暫定的措置としてのものというべきであり、これが長引いたのにも前記のようにある程度やむを得ない事情があり、その内容も、日勤勤務として具体的な作業を命じないというものであって懲戒処分とは異なるものである。」と改める。

5  同二九枚目表八~九行目の「3」の記載を「以上によれば、謹慎はその形式、内容、目的において未だ懲戒処分と同一視するに足るものとは認められないので、これによって第一審原告星野が手当の関係で不利益を受け、精神的な負担があったとしても、本件懲戒処分が二重処分として許されないことになるものとはいえない。」と改める。

6  同三〇枚目表末行の「成立に争いのない」の次に「甲第三四号証、」を加える。

7  同三〇枚目裏一行目冒頭の「三」を「五」と改め、同三行目の「結果」の次に「(原審第一回、当審)」を加える。同四行目及び五行目の各「無断」を削り、五行目の「昭和五〇」から六行目の「欠務を」までを「昭和五一年一二月二四日勤務を欠くなどのことがあったことを」と改める。同七行目の「うえに」の次に「ストライキ、ビラ貼りなどにより」を加える。同一〇行目の「によれば、これに」を「に欠勤届出制の持つ前記のような重要性及び第一審原告星野自身は自己の欠勤が右のように重大な影響を及ぼすべきものであるにもかかわらず届出につき何ら意を用いなかったことに照らすと」と改める。

8  同三一枚目表一行目の「前掲」から五行目の「いえず、」までを削り、同五行目の「同原告」を「第一審原告星野」と改め、同六行目の「あることは、」を「あるとしても、成立に争いのない甲第一九号証、第二四号証、第一審原告星野本人尋問の結果(原審第一回)により真正に成立したものと認められる同第一〇号証、第一一号証の一等にみられる事案は欠勤届その他に関する具体的な事情が明らかでないし、職場の組合との力関係などから第一審被告の懲戒処分が必ずしも適正になされていないということはできるとしても、これは、」と改める。

9  同三一枚目表八行目の次に、次のとおり加える。

「また、本件懲戒処分が組合活動、更には思想、信条を理由としたもので懲戒権の濫用であるとの主張については、右主張事実を認めるに足る証拠はない。本件懲戒処分は刑事訴追されて休職となった場合と比較しても重きにすぎるとの主張については、本件懲戒処分は逮捕、勾留されたことないしその原因となった行為そのものを対象とするものではなく、無断欠勤を理由とするものであるから、右のような比較に重要性を見出すことはできない。そのほかに、本件懲戒処分が懲戒権の濫用にあたるとすべき事情は見当らない。」

六  以上によれば、第一審原告栗林に対してなされた本件懲戒処分は、懲戒事由が認められないので無効といわなければならない。そして、右処分のため同第一審原告が金二四万四一二五円だけ賃金の支払を受けていないことは当事者間に争いがないところ、(証拠略)によれば、就業規則三一条一項の規定上その弁済期は遅くとも原判決が認定する昭和五二年一一月二四日より前に到来しているものと認められる。これに対して、第一審原告星野に対してなされた本件懲戒処分は、有効である。そうすると、第一審原告栗林の本件請求は、本件懲戒処分の無効確認請求並びに前記未払い賃金及びこれに対する昭和五二年一一月二四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払い請求部分に限り理由があるので認容すべく、同第一審原告のその余の請求及び第一審原告星野の請求はいずれも理由がないので棄却すべきであるから、これと同趣旨の原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がない。

よって、本件各控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅本宣太郎 裁判官 加藤英継 裁判長裁判官横山長は転補につき署名捺印することができない。裁判官 菅本宣太郎)

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